トマス・M・ディッシュ / 深町 真理子:訳『人類皆殺し』

今、地球はあますところなく緑色のカーペットに覆い尽くされようとしていた。謎の侵略者が播いた微細な胞子が、高さ600フィートの大木に成長しつつあったのだ。巨大な植物は草木を枯らせ、人類をはじめあらゆる動物から土地を奪い、人類の築き上げた文明を崩壊させながら加速的に繁殖する。世界の終わりが近づきつつあった。
すんげぇ面白かった。あまりにも直球ど真ん中過ぎるタイトル(なにしろ原題が『THE GENOSIDES』!)と内容が痛快なことこのうえねぇ。人類とは牧草地の土着害獣にすぎず、やつらには一切の尊厳も一片の希望も必要ない、人類は皆死ね死ね死ね死ね死んでしまえといわんばかりのディッシュさんの書きっぷりが潔過ぎるので大好き。極限の状況に置かれてもなお、かっぱえびせんを与えられたお子様のように、愚行を止められない止まらない人類を、徹底的に突き放した視線で描こうとするディッシュさんに、惚れないわけにはいかない。抱かれてもいいんだぜ?
人肉ソーセージを皆でぱくつきながら栄養補給のついでに共同体の結束を強めようとする家父長的カルト教団とか、聖書からの引用とか、○○による●●しとか、微妙にシューキョー入った描写が目立つなぁと思いながら読み進めていくと、エピローグでああなるほど全はこの風景に説得力を与えるための伏線だったのかぁと得心がゆくのが凄くいい。すわっ、「SFってのは絵だねえ」とはこのことかっ!(馬鹿はよく意味を理解せず有名なフレーズを使いたがった)
渚にて』とか『海竜めざめる』とか滅亡SFはラストシーンこそが全てなんじゃよねー。まぁ、『海竜めざめる』は、ワシ的にはかなりギャフンオチっぽいけど。
なにはともあれ、愛読書がまた一冊増えてしまったことだよ。