チャールズ・ストロス / 金子浩:訳『残虐行為記録保管所』

数学者チューリングの定理を用いた抽象概念の操作によって、魔術が―― 一部に秘匿されながらも――テクノロジーとして確立されたもうひとつの世界が舞台の、クトゥルー風味スパイ小説。魔術的災厄から人類を守るため英国政府が設立した秘密組織「ランドリー」の若き諜報員ボブの、ちょっと気の抜けた活躍を描く表題作とヒューゴ賞を受賞した中編「コンクリート・ジャングル」を収録。
これは面白かった。シニカルなユーモアに溢れた独自の語り口が楽し過ぎる。なるほどこれが噂に聞く英国人気質というやつか。よく知らないけど。本筋よりも脇道――上司の出世レースのとばっちりを受けたりとか、無能会計士やクセの強い同居人、恋人に振り回されたりとか、ハッカー的、オタク的描写の数々とか――の方が圧倒的に面白いと感じた俺は、果たして本作を正しく読み解くことができたのじゃろーか。別に正しくなくても困らんが。本ぐらい好きに読ませろ。
オカルトで科学で数学なイマドキ感たっぷりの魔術設定もキャッチーで良かったし、主人公のボブを筆頭に登場人物達は皆キャラが立ってたしで*1、全体的にほんのりラノベっぽい雰囲気があったかな。古橋秀之を思いっきりずっこけさせたような感じ*2といえば伝わる人には伝わるかもしれん。
続きが気になるのでクトゥルー度アップらしい続編もちゃんと訳されるとイイナ! 『シンギュラリティ・スカイ』と『アイアン・サンライズ』もそのうち読むよ。

残虐行為記録保管所 (海外SFノヴェルズ)

残虐行為記録保管所 (海外SFノヴェルズ)

*1:アングルトンの老獪さときたら!

*2:シスマゲドン』とはまた別のベクトルで