ネビル・シュート / 井上勇:訳『渚にて―人類最後の日―』

第三次世界大戦が勃発した。4700個以上の核爆弾とコバルト爆弾が炸裂したその戦争は短期間に終結したが、濃密な放射能が北半球を覆い、それに汚染された諸国は死滅していった。かろうじて生き残ったアメリカの原子力潜水艦スコーピオン号は、汚染地帯を避けながら、まだ放射能の影響を受けていないオーストラリアのメルボルンに非難してきた。しかし、放射能は徐々に南下し人類最期のときが迫っていた。残された僅かな猶予を人々はどう生きていくのか。
これは良い「終末の過ごし方」。眼鏡っ娘はいないけど眼鏡男子はいる。もう半世紀以上も前に書かれた作品なので、今読むとかなり黴臭さい部分が目立つんだけど、古典<クラシック>は黴臭くてなんぼのもんなので、むしろそこを楽しむぐらいの心意気で。必要以上に感情を煽り立てない抑制のきいた文章と、くど過ぎない恋愛趣味(というか心の交流?)が激しく俺のツボだったぜー。読者によっては、作者が人間性に寄せる全幅の信頼を嘘っぽく感じてしまうんだろうけど、個人的には嫌いになれない。こんな時代だからこそ心に響くものがある。多分。
自分としては、割とオールタイム・ベスト級の一冊でありました。確実に少数派の意見だとは思うけど。図書館や古本屋でみつけたら騙されたと思って読んでみやがるといいですよ?

渚にて―人類最後の日 (創元SF文庫)

渚にて―人類最後の日 (創元SF文庫)